フィリピンのマニラから北に約80kmほど行ったところにアンへレスという街がある。
かつてクラーク米軍基地があったところでその影響で歓楽街が発展し、米軍が撤退した後も、歓楽街がそのまま残っている街である。
昼は比較的人通りは少なく閑散とした感じがあり地元民が行き交う生活臭の匂いがある街だが、夜になると派手なネオンと音楽がガンガン鳴り響く男たちのための典型的な歓楽街と化す。
日本で言えば新宿歌舞伎町みたいなところである。このアンへレスにはメインどおりのフィールズ通りに沿って無数のゴーゴーバーが立ち並んでいる。
ゴーゴーバーとは若い女の子(まれに歳の食ったおばさんも含まれるが・・)がステージ上で水着で踊りそれを客席から男が鑑賞する風俗である。
入場料はだいたいワンドリンク付で100ペソ=230円ほどである。気に入った子がいれば傍に呼んで追加ドリンク(レディースドリンク200ペソ程度)を注文し話したりいちゃいちゃしたりすることができる。
このゴーゴーバーで踊っている若い女の子達はフィリピン全土から集まってくる。フィリピンは7000以上の島からなる世界でも2番目に島数の多い群島国家であるがバスやフェリーなどを乗り継いで遠い田舎の島から出稼ぎに来ていることが多いのである。
さて、このゴーゴーバーのダンサーの基本給はいくらだろうか?
実はとんでもなく安いのである。ある時、とあるゴーゴーバーの女の子と話していたらたまたま店のマスターから給料明細を渡された子がいてその子が給料明細を見せてくれたのだ。
フィリピンは基本的に週給制であるから基本的に毎週1回給料が支払われる形になっている。
その子が見せてくれた給料明細には1週間のうち6日働き1日休みで1日あたり120ペソの数字が刻印されていた。6日で720ペソである。
つまり、1日概ね8時間労働の基本給が約280円なのである。
フィリピンは途上国であり物価が安いとはいえとんでもなく安い給料である。
もちろん、客からのチップだったりレディースドリンクのキックバックだったり同伴などをすれば同伴料金の半額程度のキックバックだったりがもらえるわけで基本給がそのまま総給与額ではないのだが毎日そうした臨時収入がもらえるわけではないので基本的には約300円程度の日給と考えてよいわけである。
1日8時間働いて300円。これがフィリピンのダンサーたちの給料の現実である。
日本なら1日8時間程度働けばだいたい時給800円程度の安めのバイトでも6000円くらいは稼げる。
その差20倍である。このダンサーの120ペソという給料は決して相場からして安いわけではない。店によって基本給は異なりだいたい120ペソから150ペソが相場だと言われている。
どちらにせよ300円程度と考えてよい。これが、ダンサーではなく店のウェイトレスとなるともっと給料は下がり80ペソから100ペソ程度で約200円から230円程度となる。
確かに日本みたいに時間みっちりガツガツ働くわけではないしそれほど重労働ではないのかもしれないが8時間拘束で300円しかもらえないのは物価が安い国であるとは言えあまりにもきつすぎる。
これではやる気が出なくて当然であり労働効率が下がるのは当たり前である。労働に見合う賃金をもらえないのにどうしてやる気を出せるだろう。
日給300円というのはフィリピンの労働者の一つの指標だと考えてよい。日本人が現地で経営しているマッサージ屋のオーナーと話した時にだいたいうちは120ペソ程度払っていると言っていたし、男性が工事現場などで1日働いてもらえる額が150ペソくらいだと聞いたからだいたい基本的にその位の額なのだろう。
これでは誰もフィリピン国内で働きたくなくなり、国外に労働力が流出していくのは当然だろう。
フィリピンは世界有数の出稼ぎ大国で海外出稼ぎ労働者の送金額がGDPの1割を占めるほどと言われるのだがうなづける話だ。
国が貧しいとはそういうことなのである。1日8時間働いて300円という現実。一方で日本で働けば20倍の6000円が手に入るのなら誰でも日本で働きたいと思うだろう。